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小説「1%の不安と意気地なし」は「小説家になろう」に投稿していて、当ブログへは遅れて掲載します。

盗られて嫌われて嫌いになって 3

1%の不安と意気地なし

「冬休みはどうする? 〝田舎〟へ行きたい?」 母が僕にたずねてきたので、

「行きたくない、友達と遊びたい……」

「直樹も小学校に入ってからは友達がたくさんできたからね」

 入学するまでは幼稚園だってあまり登園せずに〝田舎〟にいたので、友達ができるわけがなかったのですが、とにかく念願が叶って冬休みは〝田舎〟へ行かないことになった。実はこれまで〝田舎〟でしか年を越したことがなく、もちろん近所の友達たちと凧揚げなど正月らしい遊びをしたこともない。二学期の終盤に正月には近くのグラウンドで凧揚げをしたり、べったん(めんこ)で遊ぼうと約束していたから、どうしても〝田舎〟へ行きたくはなかった。

 それに〝田舎〟へ行ったって伯父は智子に盗られて相手してくれないし、伯母は僕のことが心底嫌いなようだし、それに僕は智子のことが大嫌いで顔も見たくはなかったから、行かずにすんで良かったと心底思った。冬休みは同級生たちと大いに遊ぶことができたし、生まれて初めて実家で年を越すこともできた。

 しかし、春休みに〝田舎〟へ連れて行かれることになりました。平屋だった〝田舎〟を伯父夫婦やその子供が住めるように改築し、その完成のお披露目に行くのです。おそらく冬休みに〝田舎〟へ行かずにすんだのは改築中だったことと、冬に行かなくても春に行くから……、ただそれだけの理由だった気がします。

 

 

 朝早い新幹線に乗って元お祖母ちゃんの家へ行くと、まだお昼までには二時間近くあるのに二階から飲んで騒ぐ声が聞こえてきます。家の改築お披露目の席に呼ばれたのは、母と僕以外は伯母の親戚ばかりで一〇人近くは来ています。伯父や祖母そして母もお酒はまったく飲みませんから、呑んで騒いでいるのは二階にいる伯母とその親戚たちだけで、一階ではコーラやお茶とお菓子でおとなしくしていました。

 さすがに一歳半になる智子は僕たちといっしょに一階にいたのですが、元気によちよちと歩き回ってすぐ僕に近付こうとします。でも夏に伯母に蹴り倒されたので僕は逃げ回っていました。だって下手に智子に触れると伯父に叩かれそうな気がしたから。でも逃げる僕を見て遊んでもらっているとでも思ったのか、智子はキャッキャと笑いながら僕にしがみ付こうとします。

「智子、直くんに抱っこしてもらいな」

 伯父からの思いがけない言葉に戸惑った僕に対して、智子はその言葉に従って立っていた僕の足にしがみついてきました。さすがに抱き上げるのは怖いから僕は胡坐あぐらをかいて座り、そこへ智子はちょこんと座ってきました。でも僕の感情は何も変わりません、かわいいだなんて思えず、ただただ智子のことが嫌いでした。

 伯父にしても今は智子の機嫌を損ねないように僕に近付けただけで、僕をかまったり話しかけてくることも激減しているし、とにかく昔とはあからさまに態度の違う伯父のことが嫌いだし、そんな伯父にした原因は智子だから、やっぱり智子が大嫌いです。

 でも朝から飲んで騒ぐ伯母を目の当たりにして、さらに伯母のことが嫌いになりました。いくら改築したと言ってもこの家は祖母の家で伯母の家ではない。なのに親戚をたくさん呼んで、僕を蹴り倒すほど大事な智子を放置して朝から飲めや歌えの大騒ぎをするなんて。

 

 

 この日は泊まる予定でしたが、母もイヤ気が差し夕方の新幹線で家に帰ることになりました。僕にすれば本当にラッキーなこと、明日も友達と遊べるのですから。

「直樹、〝田舎〟へ行くのをいやがっていたのは幸子さんのせい?」

 新幹線の中で母が聞いてきました。

「伯母さんだけじゃない、伯父ちゃんも智子も嫌い。もうあの家へは行きたくない」

「みんな嫌い?」

「うん、みんなイヤだ。智子が生まれて伯父ちゃんは人が変わっちゃって、行ったって何も楽しくない。それに伯

母さんに蹴られたこともあるし、もうあそこへは行かない……」

「蹴られたって、何をしたの?」

 伯母に蹴られたのは僕が悪いことをしたから叱られたという思いがあり、母にはこれまで何も言っていなかったけど、新幹線の中で母にいきさつをすべて話した。かなり驚いていたけど、とにかくこれで伯父の家へ行かずにすむはずです。

 もうあそこは祖母が住む大好きな〝田舎〟ではなく、伯父や伯母が祖母の住む〝田舎〟を乗っ取ったことで元田舎、伯父の家に変わり果ててしまった。もう〝田舎〟は消滅したから行く必要もないし行くこともできないと、僕は真剣に思いました。

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