二〇二五年の春のある日のこと。
「直くん、一年ぶりだけど、私のこと忘れてない?」
智子は現れるなりこう言った。
「智子のことを忘れるわけがないよ! 大好きな智子に一年ぶりに会えるはずだと思って、ここ何日かはずっとドキドキしていたんだよ。また智子に会うことができて本当に良かった、うれしいよ……」
「直くん、本当に待っていてくれたの? うれしい……。直くん、でもね、そのストレートな言葉を本当はもっと昔に聞きたかったなって思っちゃう……」
「うん、今になってから伝えるんじゃなくて、もっと早くに伝えるべきだったと後悔してるよ。しかも何度も何度もチャンスがあったのに、すべて自分で潰すように逆ばかりを選択していたし。付き合うこともできたはずだし、結婚だってできていたはずなのに、見す見す智子を逃がしてしまったわけだから……」
「でも私も直くんがきっと気付いてくれると思い続けていたから……、ずっと待つばかりだったから……。私も素直に言えれば良かったんだよね……、私も後悔してるもん」
「僕は僕の体面ばかりを気にして、大事な一言を出さないように逃げていただけ。それも智子の気持ちに気付いていながら、気付いていないふりをして逃げていた、なぜもっと素直になれなかったのか、本当に情けない……」
「直くんを追いかけても、このまま追いつけないのかなって考えることも多くて……。直くんのことを考えないようにしよう、もう忘れようと思って他の人とお付き合いしたり、寂しくて雰囲気がそっくりな旦那と結婚もしたけど、やっぱり私は直くんを忘れられなかった……」
「他の女性ならば告白してダメでも仕方がないと頭を切り替えられるんだけど、智子にフラれるとショックが大きそうで……。それに親戚だからフラれてからも会う機会はあるし、何より親戚に対して変なことを考えているって、智子に思われることが怖かったから……。智子の気持ちに気付いていたのに、バカだよ僕は……」
「『いとこ』同士だもんね。ダメになっても親戚としてふつうに顔を合せなきゃいけないから、ちょっとつらいかな……。だから私も自分からは言い出せなかった。でも親戚じゃなかったら私たち知り合っていないよね」
「たしかになあ、お祖母ちゃんがいるから〝田舎〟へ行っていたけど、そうじゃなきゃあの辺りへ行くことは絶対にないから、智子とは知り合うことはなかっただろうね」
「直くんと知り合ってからもあまり会う機会はなかったけど……」
「何年かに一度〝田舎〟へ行って、お祖母ちゃんに顔を見せる程度だったからね」
「そう思うと、毎年会えるようになったから今の状態になって良かったのかな……」
「ここで会う時は誰にも邪魔されない二人だけの世界だし 毎年会えるようになって良かったとも思うけど、でもなあ……、それ以上に残念と言うか、悔しいと言うか、どうしてと言うか、会えるようになったけど、やっぱり寂しいよ」
「うん……、私、直くんに触れたい、直くんの息や温もりを感じたい……」
「僕も智子をハグしたい、手をつなぐだけでもいい、智子を感じていたい。でもそれはもう叶わないんだよね……、やっぱり昔に告白しなかった僕が悪いんだよ。素直に一言『好き』って言うだけで良かったのに……」
夢から目が覚めると、最後の後悔の言葉だけが頭に残っていた。