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小説「意気地無しなばかりに」は「小説家になろう」に投稿していて、当ブログへは遅れて掲載します。

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 なおこは朝早くに家を出て行った。

 さすがにベッドに招くわけにはいかず、朝までリビングのソファにいた。一度だけ抱き、あとはお互いに裸のままずっと話をしていた。

 俺がほかの女性に告られてファストフード店に行った時、なおこは許すつもりだったらしい。でも引っ込みがつかなくなってしまい、頭の中の思考と口とが正反対のことを話したという。

 俺もなおこと付き合い続けたかった。俺は告られたが断っていたのだ。でも一度だけで良いから時間を作ってほしいと言われ、学校近くのファストフード店に行った。この時も正常な思考の裏側にある正反対の思考が勝ってしまい、二股しようという思いに傾ていたのも事実だった。そんな俺を知ってか知らずか、なおこは俺のことを浮気癖が酷い人と仲の良い友達に言い続けていたようだ。そのおかげでこの後は学校内で彼女を作ることはなかった。

 妻となおこは学校卒業後も頻繁に会ってはよく遊んでいたから、俺となおこが付き合っていたことくらいは知っているはずだ。なおこに直接聞かなくても、周りのほかの友達から耳に入ったとしても全く不思議ではないし、そのほうが自然だと思う。

 

 俺が妻と会ったのは本当に偶然で、同じように商談で訪れていた会社でのことだった。高校時代には特に接点はなかったが顔はお互いに何となく覚えていて、商談の後に喫茶店で高校時代の話で盛り上がったのが付き合うきっかけとなった。

 妻と結婚したほぼ同時期になおこは同棲をはじめ、この頃から妻となおこはメッセージを送り合う程度で、直接会うことはほとんどなかった。

 

 転機は俺が妻以外の女性と腕を組んで歩いているところを目撃したときだと言う。

「きっとせつこも高校時代の私と同じように嫉妬に狂って、けんじとの関係が悪くなるに違いないと思った」

 もしもそうなったら、高校時代の続きをしてみたい。そう思って同棲していた彼と別れて俺に近付いてきた。何とか俺を振り返らせようとしたけどダメで、なおこは割って入るのは無理だと悟った。

 だからもう一度だけ昔のように結ばれて永遠にお別れしたいと思った……。

 

 なおこは妻に連絡を取ることもなくなり、俺の前に姿を現すこともなくなった。なおこにすればようやく高校時代の俺への思いを断ち切り、新しい道のりを進み始めたのだ。今はどこに住んでいて、何をしているのかもわからない。

 なおこの人生は今始まったのだろう。

 そして……。

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