お昼過ぎに一人でスーパーへ出かけ、夕飯の食材を買い込んで帰宅。久々に料理を作りビールといっしょに楽しんでいる時にインターホンが鳴った。モニターを見るとなおこが立っている。
玄関まで歩いて行き、
「どうしたの?」
「うん、やっぱり顔が見たくて……。せつこは?」
「ちょっと出かけているよ」
「お買い物か何か?」
「いや……、義父さんが入院しているのでお見舞いにね」
「留守なんだ……、入ってもいい?」
「うん、どうぞ……」
なおこは部屋に入ってテーブルを見て、
「お食事してたのか、ごめんね、こんな時間に……」
「もう片付けるから……、何か飲む?」
「けんじはビール? じゃあ、私も……」
「夕飯はまだだろ? 何か食べる?」
「ううん、食事っていうか、ちょっとつまめる物があればうれしいけど……」
「OK、何か持ってくるよ」
俺はキッチンに立って、簡単なものを皿に並べていた。その時に後ろからなおこが抱きついてきた。
「ダメだよ、また浮気を疑われるじゃないか」
「うん、でも……、もう自分の気持ちにウソはつけないから」
「俺は無理だよ。妻を裏切ることはできない」
「一度だけで良い……、抱いてほしい……」
「なおこ、どうしたの? 何かあったの? 君らしくないよ。ほかの女性と親しくしているだけで、人間としてあり得ないとまで言ったよね? そんな君が口にする言葉じゃないよ」
「本当は別れたくなかったの、ずっと、けんじの事が好きで、今もずっと……。でも私からお別れしたから仕方がないと諦めてたの……」
「俺もあの頃は君のことが本当に好きだった。でも今は無理だよ。妻を裏切ることはできない。妻がいない間に家で……、そんなことできないよ」
「お願い、一度だけでいい。もう二度とけんじの前には現れないから……、お願い……」
なおこは泣きじゃくりながら俺にしがみついてきた。正常な思考の裏側にある正反対の思考が勝ってしまい、俺の男の部分が暴走してしまった。