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小説「意気地無しなばかりに」は「小説家になろう」に投稿していて、当ブログへは遅れて掲載します。

始まる 16

始まる

 お昼過ぎに一人でスーパーへ出かけ、夕飯の食材を買い込んで帰宅。久々に料理を作りビールといっしょに楽しんでいる時にインターホンが鳴った。モニターを見るとなおこが立っている。

 玄関まで歩いて行き、

「どうしたの?」

「うん、やっぱり顔が見たくて……。せつこは?」

「ちょっと出かけているよ」

「お買い物か何か?」

「いや……、義父さんが入院しているのでお見舞いにね」

「留守なんだ……、入ってもいい?」

「うん、どうぞ……」

 

 なおこは部屋に入ってテーブルを見て、

「お食事してたのか、ごめんね、こんな時間に……」

「もう片付けるから……、何か飲む?」

「けんじはビール? じゃあ、私も……」

「夕飯はまだだろ? 何か食べる?」

「ううん、食事っていうか、ちょっとつまめる物があればうれしいけど……」

「OK、何か持ってくるよ」

 

 俺はキッチンに立って、簡単なものを皿に並べていた。その時に後ろからなおこが抱きついてきた。

「ダメだよ、また浮気を疑われるじゃないか」

「うん、でも……、もう自分の気持ちにウソはつけないから」

「俺は無理だよ。妻を裏切ることはできない」

「一度だけで良い……、抱いてほしい……」

「なおこ、どうしたの? 何かあったの? 君らしくないよ。ほかの女性と親しくしているだけで、人間としてあり得ないとまで言ったよね? そんな君が口にする言葉じゃないよ」

「本当は別れたくなかったの、ずっと、けんじの事が好きで、今もずっと……。でも私からお別れしたから仕方がないと諦めてたの……」

「俺もあの頃は君のことが本当に好きだった。でも今は無理だよ。妻を裏切ることはできない。妻がいない間に家で……、そんなことできないよ」

「お願い、一度だけでいい。もう二度とけんじの前には現れないから……、お願い……」

 なおこは泣きじゃくりながら俺にしがみついてきた。正常な思考の裏側にある正反対の思考が勝ってしまい、俺の男の部分が暴走してしまった。

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