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小説「意気地無しなばかりに」は「小説家になろう」に投稿していて、当ブログへは遅れて掲載します。

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 会社でデスクに向かっていても彼女は近寄らなくなり、寂しさの反面ホッとした部分が大きい。今朝もパソコン画面を集中して見ることができ、落ち着いて仕事ができる。女性と話をしていると嬉しさが勝ってしまい仕事が疎かになり、効率的ではなくなっていたことがあらためてよく分かった。

 しかし彼女はなぜ既婚者にばかり近付くのかな。

 

 もうすぐ昼休憩という時間にスマホにメッセージが届いた。

〝いま近くにいるけど、いっしょにお昼食べない?〟

 メッセージはなおこからだった。彼女はとある大企業で働いていて、俺なんかよりはるかに出世しているキャリアウーマン。会社の場所がまったく違うのに、仕事で近くに来ているのかな。そう思った俺は、

〝OK、すぐ行くよ〟

 とメッセージを送ってすぐに社を飛び出していった。

 

「ちょっと仕事でこっちまで来たから、いるかなと思って」

 なおこはビル横の公開空地にベンチに座っていて、俺と目が合うと立ち上がってそう話してきた。

「そうなんだね、近くのお店でいい?」

「うん、忙しくはない?」

「全然、出世街道から外れた身だからノンビリしてるよ」

 

 近くのお店に入りランチを食べながら、

「二人きりで食事をするのって、高校生の時以来よね」

「もう三〇年ほど昔のことになるなあ」

「せつことの関係はどう?」

「この間の浮気疑惑の時は微妙な空気に包まれそうになったけど……、今はもう大丈夫だと思うよ」

「ごめんね、けんじの事だから絶対に浮気していると思っちゃって……。もう高校生の頃のようなことはないの?」

「男だからまったくそういう気持ちはないとは言えないけど……、でも今は踏み止まるように気を付けてはいるつもりだよ」

「気を付けていなかったら、この間の女性と……」

「ないとは言えないだろうね。そういう意味ではちょうど良かったよ」

「高校生の頃とは違うんだね」

「あの時はバカなことをしたよ、告られてつい調子に乗っちゃって……」

「もしも別れていなかったら、私たちどうなっていたのかな……」

「高一の時の話だからその後もずっと続いたのかは疑問だけど、あんなに早く終わりを迎えることはなかっただろうね」

「そういえば、せつこには私と付き合っていたことは何も言っていないんだよね」

「うん、君こそせつこには話していないんだね」

「けんじと付き合っていたのは高一で、せつこと同じクラスになって仲良くなったのは高三になってからだから、話す機会もないまま……。でもまさかせつこと結婚するとは思わなかったなあ」

「仕事先で偶然会ったのが直接のきっかけだから……」

「けんじの事をせつこに話さなくて良かった。話していたらけんじとは結婚していないと思うんだ」

「それは俺も思うよ」

「ねえ、時々こうやってお話ししない?」

「それは良いけど仕事もあるだろうし、同棲している彼氏は良い気しないんじゃない?」

「この間別れたんだ……」

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