「ねえ、昨夜はどこへ行っていたの?」
朝食を食べ終わりソファに座って新聞を読んでいると、妻が声をかけてきた。
「会社の同僚と食事に行っていてだけさ」
ウソではない、本当のことだ。
「同僚と腕を組んで歩くわけ? 浮気しているんでしょ……」
「いいや、浮気はしていない。彼女が勝手に腕を組んできただけだ。腕を組まれたけど、どこへも行かずにまっすぐに帰宅したよ」
「でも二人きりで会っていたんでしょ?」
「それは認める、でも俺は本当に浮気や不倫なんて考えていないし、ちょっと元気がなさそうだったから食事に連れ出しただけだ」
「でも、私はイヤ、女性と二人きりで食事になんて行かないで!」
「うん、わかった。もう二度と行かない、約束する」
「私、信じてるから……」
昨夜駅前の横断歩道で指を差してきたのは高校の同級生、そして俺と妻も高校の同級生。俺に指を差してきた同級生は独身で妻と仲が良く、昨夜のうちに見たことを連絡してきたようだ。
腕を組まれてまた少し大人の恋愛を意識したのも事実だが、彼女の悪女な面を怖いとも感じていたからちょうど良い機会だ、彼女とは会社で話をする程度にしておこう。二〇歳も年が離れた〝女の子〟に振り回されてどうするんだと自分に言い聞かせ、大人の恋愛ごっこはこれでおしまい、そうするつもりだったが……。