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小説「意気地無しなばかりに」は「小説家になろう」に投稿していて、当ブログへは遅れて掲載します。

始まる 9

始まる

 もつ鍋を食べに行ってから一カ月が過ぎ、俺のデスクにやってきては悪女になったり少女になったりを繰り返す彼女。今日は得意先回りをするようで、出かける前に俺のデスクへとやってきた。
「どうせなら、一緒に外回りに出かけたいのになあ」
「俺は営業所へ出かけることはあるけど、得意先回りはしないからね」
「いっしょに得意先回りに行けるように上司に頼んでみようかな」
 彼女は仕事自体は真面目で、得意先の担当者にも気を遣いながら丁寧に接するから営業成績はかなり良く、上司からの受けもかなり良いし信頼もされているようだ。もし本当に彼女が上司に頼めば、いっしょに得意先回りをすることになるかもしれない。

 

 夕方帰社した彼女は機嫌が悪かった。
「どうして四〇代や五〇代の男性はすぐに、会社帰りの食事に誘ってくるのかな」
「誘われたの?」
「はい、明日はお休みだから少しどう? って」
「別に良いんじゃない? 誘われないよりは良いと思うけど。いやなら断れば良いだけだしさ」
 得意先の担当者や上司、同僚から食事に誘われることも多いようだが、ほとんど断っているという。

 

「四〇代や五〇代の男性って元気ですよね。少し隙を見せると危ないですもん。すぐホテルに誘ってくるし、わたしの家に上がりこもうとする人もいるし……。だから今はお誘いは基本的に断っているんです」
 もつ鍋を食べに行った時にそんなことを話していた。
「俺もその年代の男だから危ないよ」
 そう言ったのだが彼女はニコッとするだけだった。

 

「スーパーに寄ってから家に帰ります……」
「今日はダメだけど、来週にでも行くかい?」
「ホントですか?」
 月に一度くらいの息抜きなら良いだろうと誘ってみると、小さなガッツポーズを作って少女のような笑顔になる彼女。
「俺は食事の後のコーヒーまでだから、誘っても断りはしないんだね」
「あなたならアフターを誘われても断りません……」
 また彼女は悪女の顔を見せてきた。

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